前回、通訳ガイドの仕事で日本各地を巡ると書きましたが、2005年の春の体験談をひろしま通訳・ガイド協会 (HIGA)のニュースレターに掲載したものを再録します。
今春3月から、4月初旬にかけて印象的な就業体験をした。ひとつはJNTO(国際観光振興機構)の招聘プログラムで来日の米旅行会社副社長に同行、日本各地の行政の観光担当者の接遇を受ける、通訳的な要素の強い仕事である。毎年何本か日本でのクルーズ催行実績のある会社の副社長に、「我が港に寄港を」と関係者はセールスに躍起である。訪問地は青森、鎌倉、熱海、伊勢志摩、名古屋、京都、大阪、岡山、徳島、高知、松山。どういうわけか広島は今回入っていない。
最初の訪問地、青森県の官民一体での熱烈歓迎が忘れられない。市長の歓迎スピーチ、郷土料理とねぶた囃子の演奏で有名な居酒屋での歓迎会、有名な津軽三味線奏者の生演奏、店のスタッフ総出のねぶた囃子にあわせて、跳人(はねと)のステップを体験。地酒「田酒(でんしゅ)」のまわりもはやい。
次の日訪問した三内丸山遺跡のすぐそばに数年前開館したミュージアム「縄文時遊館」。英文の展示も充実しており、古代史、遺跡に関心のある人には魅力的な訪問箇所となるだろう。
鎌倉では精進料理の「鉢の木」が素晴らしい。畳の上に緋毛氈を敷き,その上に漆塗りのテーブルと椅子を設えるという欧米人用の対応をしていただく。什器は朱の漆塗り。鎌倉の老舗ということで、経営者の藤川氏も、日本料理の歴史に詳しい。醤油が出来たのは、鎌倉時代末期、北条氏の頃など「へぇ!」の連続。
大阪では世界遺産に指定され、注目を浴びている文楽を観劇する可能性を探るべく「国立文楽劇場」を訪問。「海遊館」は評判は聞いており、訪問を願っていた箇所である。イヤホーンガイドがとてもよく出来ており,水槽に近付くと自然に音声が流れてくる。段差がなく、ゆるやかなスロープを歩いているうちに展示を見ることができる。英語もわかりやすく、特に「くらげ」の種類、色彩の多様さが他に例を見ない。
岡山では備前焼の窯元を何軒か訪れた後、「閑谷学校」を視察。さすが国宝と感じさせる建物で屋根瓦は備前焼。孔子廟を一段高い所に望む教室で、教育委員会の案内担当者が訪問者を生徒に見立てて、論語の一節を復唱させる。学びたいという熱い思いの満ち溢れれていた時代にタイムスリップする感じ。
高知県「県立牧野植物園」今回の視察旅行で、訪問できてラッキーと思えた施設の一つである。土佐出身の植物分類学者 牧野富太郎氏の偉業を記念するため創立された。園内の植物展示はいうまでもなく、博士の生涯についての展示も興味深く、年数回開催される特別展も独自の視点が素晴らしい。ミュージアムショップの品揃えも,博士のお好きだった百合根のはいった羊羹とか面白いものが多い。英語の記述もとてもよく出来ている。「県立坂本龍馬記念館」案内をしてくださったMs前田の言葉の的確なこと。魅力的な案内で、クルーズ船が高知に入港することがあれば、彼女とAkiko-sanがペアでガイドをするべきだと客人に言っていただいた。
このツアーの直後に,27回来日経験のある日系米人の旅行会社社長とそのご友人20名のガイドに就業した。究極日本探究ツアーとも言えるもので、その訪問地は、巌流島、姫路城、大石内蔵助屋敷跡、有松絞体験(愛知県)、清水次郎長生家(静岡県)、伊豆でイチゴ狩りなど。その社長がおっしゃる。「日本のたいていのところは見ました。何か新しいデスティネーションの情報が欲しい。神社、仏閣、城、庭以外に何かないの?」そこで、前述の体験談を英文書面にしてお渡しすると、非常に喜んで下さった。
思うに、魅力的な訪問箇所に2つの共通点がある。「訪れる人に何を見せたいか」というコンセプトがはっきりして、国際客への対応(バリアフリー施設・英文表示など)がなされていることと、もう一つはその場所をよく知り、愛し、その魅力を多くの人に伝えたいという情熱を持った人間がいるーということだと気付く。
広島でも、クルーズ誘致にようやく本格的取り組みが始まっているようだ。平和公園・宮島は初めて広島を訪れる方には十二分に見応えがあるものだが、二度三度とこの地を訪れていただくために、新しいデスティネーションの発掘、また既存のものでも、違った切り口で見ていただく提示の仕方への工夫が必要だろう。HIGAの学習会、研修会での私たちの取り組みは、そのニーズへの対応に大きく貢献するものだと信じている。