● 1980年代半ばの急激な円高は、主に日本だけの問題でした。90年代の長期不況は、いわば日本がひとりで勝手に転んで始まりました。両期間ともに海外の需要は堅調でしたので、日本さえ立ち直れば、その後は輸出主導で比較的順調に成長したといえます。ところが、今回はどうも長期にわたる調整が世界的規模で必要となりそうです。特に深刻なのは雇用問題。最も脆弱な非正規雇用者にいち早く影響が現れました。のみならず正規雇用者についても人員削減が始められつつあります。新卒者の就職は、一転して「超氷河期」に突入することが懸念されます。
● 金融政策の手段は限られてきましたので、大型の財政出動への期待が日増しに高まっています。その一方では大幅な税収減が見込まれているため、抑制されてきた国公債の発行を拡大せざるをえません。道路特定財源についても、一般財源化どころではないという政治家たちの意見が優先されました。かといって、旧来型の公共事業の乱発はぜひとも避けなくてはなりません。どうせ何らかの公共事業を実施するのであれば、当面の雇用対策に貢献するはもちろんのこと、良質のストックにつながるものであること、できれば人に対する投資であることが望まれます。
■ であれば、超大型のGreen Public Worksはどうか。数年から10年くらいかけて、荒廃した森林の手入れ、自然林や里山の復元、コンクリートだらけの農山村の景観修復などをおこなうという提案です。80年近く前、世界大恐慌のあおりで窮乏した農村を救済するため、高橋是清は「時局匡救事業」を実施しました。そのとき造られた砂防ダムなどは、いまなお各地に伝えられています。同じころ、フランクリン・ルーズベルトは「民間保全隊」(Civilian Conservation Corps)を設置しました。当時のプラグマティズムに基づく青少年活動と失業対策を組み合わせたもので、のべ数百万人の若者が数か月から数年のあいだ森林保全活動に携わりました。アメリカの美しい国立公園は、このときに基礎が整備されたといいます。
● 超大型のGreen Public Worksによって、失業対策に即効性が見込まれます。森林保全活動をしながら別の職業訓練をするためにも、まずは生活基盤が必要です。宿舎として廃校などの利用が考えられます。仮設住宅を新設してもよいと思います。仮設住宅は大規模災害時に利用できます。雇用された人々のなかには、地域に定住する人も出てくるでしょう。山林の手入れについて地元の人たちが指導することで、生きがいにつながります。間伐材を利用した工芸品づくり、バイオマス燃料の開発などへの広がりが期待されます。環境学習やグリーンツーリズムとの組み合わせもおもしろそうです。都道府県境を越えて流域圏単位で取り組むことにより、道州制移行の練習台にもなると思います。
● その一方、何かを選択することは、ほかの何かを犠牲にすることを意味します。国公債がふくらむと、当面は円高傾向が続きます。輸出企業にとっては厳しさが増します。外国人観光客の入り込みは減ります。しかし、「あれもこれも」は無理なのです。これらの問題が生じたとしても、やがて日本人にも外国人観光客にも魅力ある美しく安全な国土が必ず約束されます。「超大型」といっても、人にかかわる投資はその効果のわりに案外少なくて済むはずです。1人500万円、年間10万人としても5,000億円。合計で8兆円あまりという8地方整備局の予算に比べればタカが知れていると思います。